オンラインCD・ATMの元祖は日本 第二話:CDからATMへ技術革新 (執行役 榎本惠一)

1411cdatm1 日本の製品開発と技術力は優秀で、紙幣の真偽判別、日本独自の通帳記帳、入金した紙幣を出金へ自動還流する資金効率化など、開発は多機能化へ進展しました。紙幣の入出金取引に留まらず、各種の振替・振込、コインの入出金、24時間稼働、防犯対策、通信ネットワーク共同利用など、多角的システムと連動させました。その結果、適用可能な取引は「普通預金入出金」「定期性預金」「振替・振込」「残高照会」「外貨預金」「クレジットカード・キャッシング」「銀行カードローン」「ローン返済」「税金振込み」「生命保険」「宝くじ類購入」「暗証番号変更の手続」に至るあらゆる処理ができるATMへと発展しました。従来は銀行テラー(窓口係)の複数人で分担処理していた取引は、1台のATMで顧客が自ら操作できる方式へ移行した。 顧客と金融機関の双方にメリットを生む自動機器は、開発から40年の短期間に都銀、地銀、相銀、信金で導入熱が高まり、著しく普及しました。1975年当時、都市銀行13行の総支店数は2700店でしたが、都銀だけで3000台のCDが設置され、1支店複数台のCD設置時代が始まっていました。現在では1支店に10~20台以上のATMが設置されていても珍しくない状況にあります。銀行とATMの密接な関係はもはや切り離すことができない時代になりました。 しかし、現在のATMシステムに至る開発上の苦悩は並大抵な経緯でなかったのを知らない人も多いでしょう。それらの代表的開発項目と解決背景について、いくつかの事例を添えて紹介します。

1. ATMへ変遷

当初、CDで取引操作した顧客は、通帳へ記帳ができませんでした。ロビー・カウンターへ戻って、窓口で取引記帳をしてもらっていました。これではCD設置の目的は半減してしてしまいます。都銀を中心にCDの補助機として「通帳記帳付CD」、「自動通帳記帳専用機:Passbook Updater(PU)」、「自動預入専用機(AD:Auto Depository)」の新製品が開発されました。1980年時点で、都銀13行の預入専用機(AD)の総設置台数は600台に及びました。しかし、これら三種のCD補助機は顧客にあまり利用されず、設置期間は短命に終わりました。銀行のロビーはCD機の増設が優先され、他の自動機を設置する余裕スペースがなかったためです。その解決には「CD」「PU」「AD」を一体化させたコンパクトな新製品「ATM」の開発をする以外にありませんでした。開発済みCD・PU・AD機の技術ノウハウはATMの早期開発実現に貢献し、CDとADの単能機はATMに入れ替えられ、銀行から消え去りました。銀行のコンピュータ-史や自動機の歴史書の中に「通帳記帳式CD」と「AD専用機」の記述はあまり見られません。35年以上前にAD専用機で実際に入金取引を経験された方は、今は知る人が少ない「CD・AATM歴史」の貴重な生き証人と言えましょう。

2. ATM開発の苦悩

ATMが現在の姿になるにはかなりの紆余曲折を辿りました。代表的な開発項目として次の事項があげられます。 (1)劣化紙弊と真偽判別 自動処理機である限り、先ずは偽札を扱えない紙幣の真偽判別機能を備えなければなりません。日本の紙幣は印刷時に磁気波形の出るインクが使われており、その波形は金種別に異なります。それを瞬時に読み取ると同時に紙幣サイズの判別を行います。今は透かし、色、特殊記号を含むチェックが強化されましたが、一旦水に濡れた紙弊、汚れ紙幣、酷いシワ紙幣は正常紙幣でも判別できないケースを生みます。紙幣は機械内の搬送中にちぎれてしまうこともあります。そのため銀行と造幣局の相互協力で紙幣品質のレベルは管理され、酷い汚れや破損紙幣の流通を減少させました。流通紙幣の品質向上はATM出現のおかげと言っても過言ではありません。日本のATMによる紙幣入金機能は外国人の目には驚きの優れた技術なのです。 (2)ATMと通帳記帳 銀行通帳は元々銀行毎に仕様が違っていました。縦型、横型、サイズ、頁数、印字フォーマットがバラバラのため、機械でページ捲りや通帳繰越をするには通帳の標準化が必要となります。通帳の表紙は柔軟な布張りに統一しなければなりません。これを統一化する負荷は大きく、通帳そのものを廃止して欧米式「ワン・ステイトメント・バンキング(月1回取引明細送付方式)」を検討し、試行しましたが、日本の通帳顧客ニーズを変更できませんでした。当時は給与振込、五大公共料金引落しの未記帳データが膨大に増加し、更にATM取引の未記帳が加わると中央コンピュータは負荷過剰となりシステム・ダウンのリスクがありました。そこでATMに通帳記帳機能を付加させ未記帳データを排出させる選択となりました。また、通帳印字機能があれば銀行側は入金取引の都度の印紙税負担を削減できる利点もありました。 (3)入出金紙幣の自動還流機能 初期のATMでは、入金された紙幣は入金ボックスに、出金紙幣は出金ボックスから送出される構造になってました。しかし、この方式は入金ボックス内にお金がたくさんあっても出金用に利用ができません。出金ボックスの紙幣が少量になると、行員が現金を補充しなければならず、営業時間外であれば機械は停止します。仮に出金ボックスへ2千万円の補填を繰り返し行い、1支店にATMが5台あれば、運用上の負担が大きい上に、1日数億円の追加資金を必要とします。つまりATMは資金効率の悪い機械となります。この問題解決のため「現金還流式ATM(入金した紙幣を出金へ利用)」の開発要求が生じました。これはメーカーにとってH/W、S/W、システム上の開発が決して容易ではありませんでした。だが実現により、ATMに装填する資金量が抑えられ、営業店の資金効率が飛躍的に高まったのです。 (4)セキュリテイ対策 初期のCDカード暗証番号は、時期ストライプ上に記録して照合する方式を採用していました。CDカードの紛失や盗難により簡単に暗証を解読され、預金口座から引出される事件が多発し、カード上の暗証記録は廃止され、センターファイルと照合する方式に変更されました。その改善後も暗証番号や本人確認の不正問題はなくならず、ICカード化、手のひら静脈認証、指静脈認証、声紋認証などの本人確認システムは今も開発が推進され、強化を目指しています。ATMコーナー内には機器と操作者、並びにコーナー全体の監視カメラが常時作動されていて、セキュリテイ会社との連携を含めた対策は一層の強化が図られています。 以上の主要4項目に加え、ATMに関する多くの機能と運用システムが追加開発されてきました。次回は詳しい機能とコンビニATMについてお話ししましょう。

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