宮崎駿の「風立ちぬ」は大傑作だけど… (エンタメ・趣味担当 研究委員 鈴木裕治)

7月20日公開以来、興行成績1位を記録している「風立ちぬ」。宮崎監督の引退宣言もあって、今年度の興行成績ナンバーワンになることは間違いなさそうだ。

零戦の設計者・堀越二郎を主人公にし、堀辰雄の「風立ちぬ」の婚約者が病に冒され、やがて死に至る、という設定を借りたラブストーリーで、登場キュラクター達の純愛と薄幸さに思わず涙してしまう。とは言っても、やはり宮崎アニメらしく、飛行機の細部にわたるディテール、浮遊感、スピード感は見事で、冒頭の関東大震災のシーンはクロード・モネのようなタッチで暗雲を描き、その想像力、力量に目を奪われる。

日本禁煙学会の苦言とは?

この傑作アニメに、NPO法人の「日本禁煙学会」が、映画の中で描かれているタバコの描写について、「あらゆるメディアにおけるタバコの広告・宣伝が禁止されているにもかかわらず、この作品は条約に違反している」との苦言を呈した。確かに、喫煙シーンが非常に多いのだ。このクレームに対して、大方の文化人は「表現の自由を侵すものだ!」と日本禁煙学会を非難した。脳科学者の茂木健一郎氏などは、ツィッターで「『煙草吸いすぎ』という陳腐なイチャモンしかつけられない禁煙学会のやつらって、人間としてタコだよね。ほんと、腹立つわ」と怒り心頭だ。喫煙文化研究会によると、舞台となっている昭和10年代(1935年~44年)、男性の喫煙率は84・5%で、当時の状況を再現するに当たっては極めて一般的な描写、とも論じている。

禁煙に反対表明

この喫煙シーンの多さは、リアリティを追求しているのではなく、あくまで宮崎監督の主張だ。日本禁煙学会も指摘しているが、肺結核で伏している妻の手を握りながらの喫煙描写があり、これはかなり異常な表現だ。あえて過剰な表現を使った確信犯だと思う。現代の禁煙の風潮に対して、反旗を翻しているわけだ。つまり、日本喫煙協会は、宮崎監督の主張に対して、反対表明をしている訳で、表現の自由云々の問題ではない。

宮崎監督のチェーンスモーカーぶりは有名で、NHKのドキュメンタリーに登場するジーンでも、常にタバコをくわえ、仕事と格闘している。東日本大震災後には、タバコ約200箱をもって気仙沼の漁協に訪問している。

大人向けアニメを明確に

この「風立ちぬ」は、数々の喫煙シーンやラブシーンで大人向きアニメといいうのが明確なわけで、ならば、上映に際して、「子供には不適切な表現があるので、云々」という一言があっても良かったのではないだろうか。「風立ちぬ」は日本テレビが資金提供しているわけだから、当然、テレビ放映する。アメリカのテレビアニメでは、タバコのシーンは決して出てこないし、日本アニメの主人公がタバコをくわえるシーンでは、キャンディに変えられたりしている。お隣の韓国も同様だ。宮崎監督が引退宣言した日、「紅の豚」がテレビ放映された。当然、主人公の喫煙シーンはそのままだ。日本は本当にタバコに対して、甘いし、鈍い。宮崎監督は受動喫煙の恐ろしさも知っているはずだ。スタジオジブリの作業部屋は、北京の空気なみに汚染されているかも、だ。

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