高齢者を詐欺被害から守る(日本元気シニア総研 代表 富田眞司)

(初出 2013年6月 「元気シニア時代への提言」シリーズより)

高齢者詐欺被害増える

今、高齢者の保有する資産を狙って色々な問題が起きています。それは、60歳以上の保有資産が全世代の60%にも達しているため、狙われるのでしょう。しかも、シニアは、あまりお金を使わないこと、普通預金やタンス預金として、使いやすいところに預けていることも、被害にかかりやすいのではないでしょうか。その被害の多くは詐欺です。そこで、今回は高齢者を詐欺から守ることについて話と提言をします。

安愚楽牧場、旧経営陣を強制捜査へ

畜産会社「安愚楽牧場」が「和牛オーナー制度」で全国の7万人以上もの会員から資金を集め、繁殖用の牛への投資を募り、生まれた子牛を市場で売却した代金を配当する「和牛オーナー」制度で成長を続けていましたが、おととし、経営破綻し、破産の手続きが進められています。

そんな中、繁殖用の牛の数を過大に説明していた疑いが強まったとして、警視庁は旧経営陣数人を近く特定商品預託法違反の疑いで強制捜査に乗り出します。警視庁は「安愚楽牧場」の契約や運用の実態について捜査を進めたところ、破綻の直前に投資家と契約する際に繁殖用の牛の数を実際よりも過大に説明していた疑いが強まったということです。高齢者の大切な老後資金を投資に回した人も沢山います。

高齢者詐欺被害、数々の詐欺

安愚楽牧場は、経営が順調にいかず、繁殖用の牛の数を過大に説明することで、経営破たんしたものです。最初から詐欺であったわけではありませんが、結局、投資したお金が戻ってこないとなると大変ですね。

では、高齢者がつい引っかかってしまう詐欺には、どんなものがあるのでしょうか。

1. 振り込め詐欺被害が大きい

シニアの自宅に突然電話があり、息子の泣き声で大変なことが起きたと話すと、電話に出た母親がつい息子の名前を叫んでしまいます。電話をかけてきた男が息子の名前がわかると息子になりすまし、大金を無くす被害にあったから母親にそのお金を出させるという手口です。

金融機関に振り込ませることから、「振り込め詐欺」と呼ばれていました。かなりの人が被害にあっています。

最近の「振り込め詐欺」は手渡しで現金を受け取る手口が多く、名称と実態が合っていないとして新たな名称を募集していました。その結果「母さん助けて詐欺」を最優秀賞に選んだと発表しました。

そういえば、我が家のカミサンにも、息子となのる男性から泣きながら、電話がかかってきました。でも、我が家には息子がいないため、電話にでたカミサンは思わず噴き出してしまい、未遂で終わりました。

でも、どうして、「振り込め詐欺」の電話は息子から母親なのでしょうね。恐らく、母と息子はコミュニケーションが少なく、息子の事情を母があまり知らないからでしょう。

2. 送りつけ詐欺が急増

今、最も急増しているのは、「送りつけ詐欺」といわれるものです。送りつけ詐欺というのは、「注文した覚えのない商品」を消費者に送りつけ、その商品代金を請求する商法です。

多くの場合は、郵便や宅急便で商品を生活者に送りつけてきます。送りつけられた商品には見覚えがなく、商品と一緒に商品の代金の請求書が同封され、そこには「何日以内に指定口座に何万円支払ってください」というような内容が記載されています。

中でも、悪質な業者の場合は、代金引換郵便で送りつけ、消費者が受け取る際に料金を支払うようにしてくることも、あるようです。送りつけられる主な商品は、書籍、雑誌、ビデオ、DVD等があり、その価格は数万円程度と言われています。

最近、送りつけ詐欺が急増、2012年度は前年比5.2倍、14,274件という発表がありました。

3. 未上場株勧誘などの投資詐欺

投資を目的とした詐欺もあります。銀行の金利が低いため、何とか資産を増やしたいと思うシニアが沢山いるからでしょう。そこに眼を付けたのが、未上場株が近く上場するので保有すると利益がでると購入を誘う未上場株勧誘詐欺があります。

筆者のところにも、以前、良く未上場株勧誘の電話がかかってきました。未上場株への投資に興味があるかという質問に興味があると回答すると、緑色の封筒の中に、A4、三つ折りの立派なカラー印刷の会社案内が送られてきました。

投資詐欺とわかっていましたので、何か問題はないかと、一生懸命調べましたが、特に問題は見つかりません。強いていえば、会社の社名は普通の活字で印刷されていることでしょう。上場を考えている程の企業なら通常は、オリジナルな活字による社名やロゴマークを使いますが、社名はゴチック調の普通の活字で、ロゴマークはなかったような気になりました。その後電話があり、投資を勧められましたが、話には乗りませんでした。

この他、海外ビジネスへの投資を呼び掛ける詐欺があります。投資すると利益が出ると誘うものです。やはり、私のところにも電話がありました。何でも、アフリカで油田が見つかり、石油を掘ることに投資しないかというものでした。もちろん、ノーと答えました。

4. 短歌・俳句の新聞掲載への電話勧誘詐欺

俳句や短歌の新聞掲載を電話で勧誘し、掲載後、高額な掲載料を請求する事件が相次いでいます。同人誌などに俳句を載せることがある人が被害にあっています。ある日突然、電話がかかってきて、「同人誌であなたの俳句をみたがとても素晴らしい作品ですね。ぜひある大手の新聞で掲載をしたい」と言う内容、俳句を褒められたことに気をよくしていると、「新聞に掲載するためには掲載料が必要で、ぜひ掲載して欲しい」と勧められ、有料ならと断ると、それから何度も電話がかかってくるようになり、何度も「あなたの俳句は素晴らしい。新聞に掲載すべきだ」と褒められ次第に心が動くようになり結局、お金を払うことになるというものです。

自分の作品のレベルを気にしている人に、「作品を褒める」という人の弱みに付け込むもので、褒めまくって勧めることから「褒め褒め詐欺」といわれているようです。

5. 当選番号事前に教える詐欺

シニアの女性が、電話で宝くじの当選番号を事前に教えると持ちかけられ、現金をだまし取られていたことが分かり、警察は詐欺の疑いで捜査するとともに、宝くじを口実にした振り込め詐欺が相次いでいることから注意を呼びかけています。

ある女性の自宅に架空の会社の社員をかたる男から「宝くじのロト6の当選番号をくじの前に教えるので○○○万円を支払ってほしい」と電話があり、女性は金融機関の窓口などで男が指定した銀行口座に数回にわたって、合わせて数百万円を振り込んだというものです。当選番号が事前に分かる筈がないのに、どうして、見えすぎた話にのってしまうのでしょうか。

6. カモリストによる連鎖セールス

一度詐欺被害にあうとその名簿が悪質業者間で高額で取引されているといいます。そのリストを「カモリスト」と言われています。カモリストに一旦掲載されると、悪質業者や振り込め詐欺団などによる、再勧誘のターゲットになり、職場や自宅に毎日勧誘電話を入れられたり、景品または商品が当選した旨のハガキが届いたりするようになりますので、気をつけましょう。

シニアが詐欺に合わないための防止策の提言

なぜ、多くのシニアが詐欺被害にあうのでしょうか。「シニアに世間で起きている情報が届かないこと」つまり「情報に疎いこと」が第1にあげられます。シニアが社会から孤立し、「情報難民」となっていることが原因と思われます。

第2には、「安易に信用してしまうこと」があげられます。特に、母親は息子からの困った声にびっくりしてしまうと、動転してしまい、疑いもなく、信用してしまうようです。

高齢者が息子の声が聞き分けられないのは、日ごろから会話が少ないこと、泣き声で判別がつかないこと、さらに、加齢による聴力低下などが原因として考えられます。もっとコミュニケーションできていれば、詐欺にかかることもないでしょう。

第3には、シニアはあまり精神的に強くないため「あまりしつこく言い寄られると断れないこと」などが原因としてあげられます。

その対策としては下記の方法があげられます。

1. 高齢者は、もっと世間の情報や知識を知ること

高齢者が詐欺にかかりやすい理由の一つに、情報不足があります。例えば、「振り込め詐欺」は何年も前から起きています。その情報が伝わっていれば、いまさら、振り込め詐欺にかかることはありません。

こんなに多発しているにも関わらず、伝わっていないとすれば、知らないでいる高齢者に課題があると言わざるを得ません。

もちろん、介護生活や病気などで、情報に接することができない人は別として、多くのシニアはもっと世間で起きている情報に眼を向けることが大切であると考えます。

シニアが情報に強くなれば、詐欺にかからないだけではなく、脳の活性化にも役立ち、増加する認知症予防にもつながります。

2. 自己責任を自覚すること

安全な国に住む日本人は、街で歩きながら被害に会うことがめったにありません。日本があまりにも安全な国であるがために、自己責任という考え方が少ない人もいます。

訴訟が多い国の人達はトラブルが起きれば、自己責任であることを強く実感しています。例えば、掏り被害が多い国では、掏り被害に合わないように、貴重品の保有には十分気を配っています。

筆者がイギリスで旅行中に実際に体験した話をしましょう。娘が持っていたバッグのチャックが外側についていましたので安心していましたが、ある時、歩行中に娘にぴったりくっつき、そのチャックを歩きながら開け、中に入っているものを盗まれそうになりました。3-4m後ろを歩いていた私も、全く気付きませんでした。幸い中にたいしたものが入っていなかったので、チャックだけ開いたままで済みました。が、もし、貴重品が入っていたら簡単にとられていたでしょう。

イギリスでは、チャック付きのバッグはチャックを内側にすることで身を守ることができます。

日本では、小さな後ポケットに、大きな財布を入れ、平気で歩いている人をよく見かけます。後ろを歩いている人がその気があれば、簡単に盗むことができます。

盗難あえば、当然、自己責任になります。つまり、「詐欺被害にあえば、当然、自己責任になる。」ということをもっと自覚することで、被害を抑えることができます。

3. 詐欺被害に合いそうになったら、とにかく相談する

かかってきた電話や届いたものがどうも変だと感じたら、とにかく身近な人に相談することです。家族がいれば家族に、ご近所や知人に相談することです。身近に人がいない場合は、警察や消費者センターなどに相談しましょう。

4. シニア向けセミナー開催や詐欺対策マニュアルを配布する

孤立しがちなシニアの場合、行政などが主宰で定期的なシニア向けセミナーが開催されるといいですね。詐欺対策だけでなく、シニアの孤独を防ぐことで、孤独死対策にもなります。また、詐欺対策マニュアルを作成し、広報などを通して地域で配布する方法なども、考えられます。

5. 振り込め詐欺防止用、高齢者に録音機

振り込め詐欺の防止策として警視庁は東京都内の高齢者宅に詐欺からの電話を自動録音できる装置を無料で1万5000台配布すると発表しました。声紋などを解析し、犯人グループの割り出しに活用します。録音機の配布は全国初だそうです。同庁によると、録音機は着信した通話がすべて録音されるが、プライバシー保護のため録音内容は警察官が暗証番号を入力しないと聞けないように設定するそうです。通話の前に「会話内容が自動録音されます」という警告メッセージを流すこともでき、このメッセージが詐欺の抑制にもつながります。

都内で昨年確認された振り込め詐欺の電話は約1万1200件に上り、パニックになり、通話内容を正確に思い出せない被害者が多いようです。今後は録音機から犯人の記録だけを抜き出してデータベース化するとのこと。録音機は戸別訪問などで希望者を募り、各警察署を通じて貸し出します。申し込みも最寄りの署でできるということです。

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