シニアの生活の糧 「年金」 、制度崩壊してほしくない(日本元気シニア総研 代表 富田眞司)

(初出 2011年12月 「元気シニアの時代への提言」シリーズより)

1. 年金が政治の重要課題になる

今、年金財政の悪化で、年金が大きな問題になっています。年金受給者にとっては、自分たちの年金受給にも影響する問題で、人ごとではありません。その内容は、年金支給年齢の引き上げと支給年金額の減額に関する論議です。

年金の支給年齢が引き上げられるのか?

一つは、年金財政の悪化で、年金支給年齢の引き上げが問題になっています。厚生年金の支給開始年齢を将来的に68~70歳に引き上げることを念頭に、社会保障審議会の年金部会で三つの案を提示しました。これから検討されますが、年金の支給年齢の引き上げは、将来、年金を年金受給する若い人にとっては、大変なことですね。慎重に審議され、できるだけ、世代間による不公平感が出ないようにして欲しいものです。

物価スライド制による、支給年金の減額実施も!

もう一つは、政府の行政刷新会議、「提言型政策仕分け」で受給額が取り上げられたことです。年金分野では、本来より高い「特例水準」での年金給付が続いていることへの批判が出ています。「2012年度から速やかに解消すべきだ」との提言がありました。

公的年金には、物価変動に応じて給付水準を増減する「物価スライド制」の仕組みがありますが、政府は「高齢者に配慮する」として、2000~02年度の物価下落に伴う引き下げを見送ってきました。その後も物価の低迷が続き、特例水準による上乗せは2011年度で2.5%に拡大しています。

財務省は仕分けで「特例水準で膨らんだ給付額の累計約7兆円もあり、その減額が実現しそうです。どんな内容で実施されるか、これから検討されますが、もし、原案で実施されれば、当面、年金受給額の1%程度の減額になりそうです。

2. 年金受給の不公平感は、賦課方式による制度疲労か?

日本の年金制度は、制度疲労を起こしています。人口増加社会、経済成長時代に作成された今の年金制度は人口減少社会では成り立たなくなっています。

年金制度には、「積立方式」と「賦課方式」の二つ

「賦課方式」は、働く現在現役の人が払い込んだ金を現在の高齢者に支給する仕組みです。賦課方式によって「世代間扶養」が実現できます。

一方、「積立方式」とは若い現役時代に払い込んだ金を積み立て、老後にそのお金を受け取る仕組みです。自分の納めた年金額や、自分が受領する年金額が計算できます。

日本は人口増加を前提に「賦課方式」が取られてきました。若い世代から集めた年金を高齢者に支給される方法なので、若い世代が多い時代は収入が多く、楽な運営ができました。しかし、若年労働者が減少すると、将来支給される年金額が少なくなり、この制度での運用が厳しくなります。さらに、年金運用の単年度決算も曖昧で、運営の甘さや、無駄な使い方も指摘されています。

「賦課方式」の制度疲労がもたらした不公正感

今、起きている年金受給の不公平感はまさに、「賦課方式」による制度疲労と言えます。
でも、これだけでは、ありません。国民年金、厚生年金、共済年金など、複雑な制度が並存し、職業によって、年金の種類の違いや、支給される金額にも不公平感が生じています。政府は一体改革を目指していますが、制度改正には、不公平感を無くすことが何よりも大切になります。また、制度改革に伴う、財政出動を最小限にとどめるなど、多くの課題が残されています。

3. 受給者としての筆者の実感

62歳での退職時、筆者の厚生年金受給額は月額20万円、無職の妻は、私の退職後5年間国民年金を払い続けた

国の政策はともかくとして、筆者(現在71歳)の年金受給としての実感に触れましょう。62歳で定年退社し、受給開始しました。妻は当時55歳でした。40年支払って月額20万円弱でした。厚生年金は現役時代の「50%確保」と言われていますが、そんな実感はありません。しかも、退職時の妻は55歳でまだ年金が支給されません。国民年金を60歳まで5年間払い続けました。

来年、筆者が72歳になってやっと妻が65歳になり、年金が満額受給できます。もし、厚生年金だけでの夫婦生活なら、年金受給額から、妻の年金支払額を減額すると月18.5万円程度の年金だけでは、ちょっと生活が厳しいですね。幸い、筆者は、執筆、講演などの収入があるため、生活ができています。

色々な年金がある、リタイア後は、年金格差社会になる

厚生年金の話をしましたが、年金にはいろいろなものがあります。自営業者には、国民年金が支給されますが、夫婦で13万円程度です。公務員は共済年金があり、厚生年金より優遇されているようです。話はサラリーマンに戻りますが、厚生年金以外に企業年金、個人年金などがあります。

企業年金は、大企業や業界で実施されています。勤続年数によって支給金額も違いますが、勤続年数が多いと厚生年金額と同程度収入がある人もいるようです。どんな会社に勤務したかで、大きな年金格差が出ます。リタイア後の生活費はまさに、年金格差社会と言わざるをえません。

4. 年金行政に関して思うこと

日本の年金制度は大丈夫なのでしょうか?

若い人から日本の年金制度は大丈夫か?との質問を良く受けます。破たんするなら、年金を払いたくないという率直な質問です。一応、大丈夫と答えていますが、実際のところ、どうなんでしょうね。年金財政について、正確な情報があまり公開されていないのが実情ではないでしょうか。

私が調べた結果では、1年間に支給された年金の総額が約50兆円です。また、最新の年金運用資産額は110兆円です。年金収入が1年間でざっと30兆円程度で支給額に対する不足額が20兆円程度生じています。不足分のうち、13兆円を税などでまかない、差額の7兆円を年金資産から取り崩しているようです。

税からの補てんや、年金資産の取り崩しでまかなっているのが現状なので、先行きかなり厳しい現状です。運用益が出なければ、年金財政が破たんすることになります。110兆円の年金資産は仮に資産運用益がなく毎年7兆円を取り崩せば、単純計算で16年でなくなる計算になります。このままいけば、破たんする可能性が高いと言えそうです。

一方で、破たんしないという経済学者もいます。マクロ経済スライド制の導入などで減額対応することや、税金の投入で、財政悪化を回避するということなのでしょうか。

年金財政が正確に国民にわかりやすい形で公開されていなので、何ともいえませんが、このままでは厳しくなるのは必定です。だから、年金改革が急がれているのです。

年金危機を乗り切るには

年金財政の健全化には、当然、今、受給している人の年金支給の減額も含まれます。それは嫌だと反対することもできますが、年金財政が破たんすれば年金がもらえなくなります。
年金財政が健全でなければ、将来に向けての年金受給も期待できません。こう考えると、今の年金支給がそのまま、何時までも続く保証はあまりないようです。

その対応には、例え僅かでも、年金以外の収入の道を考えることです。また、出費を抑え、支出を少なくすることも大切です。

「年金以外での収入の道を考える」こと、「出費を抑える」こと

ある調査では、高齢者の生活費の7割が年金に頼っているとのことです。年金は高齢者にとって、重要な生活費になっているわけです。その年金の減額への対応は、それ以外の収入を増やすことです。生涯現役で働くことができれば、いいですね。専門分野の能力を活用や、NPOで社会貢献などの収入の道や、資産運用などがあります。

もう一つは、出費を抑え、支出を少なくすることです。高齢者の生活費の平均は23万円程度で、そんなに多くありません。一般的な家庭では、食費、光熱費、医療費などが主なものでしょう。あまり、節減できるものはありませんが、健康でいれば、医療費は節減できます。まずは、散歩などの運動を励行し、医療費の削減を目指したいものです。

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