こんなはずじゃなかったシニアライフ 第2回「自由という名の男のロマン」

第2回「自由という名の男のロマン」

原沢修一です。「こんなはずじゃなかったシニアライフ」 その第2回をお届けします。

男のロマン

やっと手に入れた自由。何でもできる自由、何もしなくても良い自由、至福の時が訪れる。いろいろ考えた。まず妻の労をねぎらって一緒に旅行にでも行こうか。仕事で思うようにできなかった趣味のゴルフが好きな時にできる。こんな贅沢があるだろうか。映画、音楽、読書、博物館、美術館、名所旧跡巡り、やりたい、見たい、行ってみたいことは山ほどある。 後で知ったことだが、これは私だけのことではなく定年退職者が考える定番、典型的な「男のロマン」現象なのだそうだ。

退職とともにきれる縁

退職願を出してから退職するまでの間、飛ぶ鳥跡を濁さずとは言うけれど、もう仕事に熱が入るわけがない。引き継ぎといっても1週間もあれば終わってしまう。しばらくたって同僚より退職日に送別会を行うことを告げられる。今まで数多くの送別会に出席したが、自分のこととなると妙な気持で、先のことなのに最後のスピーチのことが気にかかった。送別会では昔話に花が咲き、多少の嫌味も言われ、最後にお決まりの挨拶・記念品・花束贈呈で終わった。一瞬サラリーマン生活36年間のことが走馬灯のように頭を駆け巡った。明日から30年以上通ったこの会社に来なくていいのだ。本当にもう来ないのだ。これで私とこの会社との縁が切れてしまうのか。今日という一瞬を境に、おそらく何人かを除いて、ここにいるみんなとは一生会うことはないだろう。長年の縁が今日をもって切れる。そうしてみんなばらばらになりタンポポの綿帽子みたいに自分の住む地域に散っていく。そして私もそこに根を張り暮らしていくことになるのだろう。

希望退職とリストラ

早期希望退職に手を挙げたことを家族に説明しなければならない。どのみち60歳になったら退職するのだから、時期がちょっと早まっただけのことである。割増退職金が出るので定年まで勤めた場合と、経済的には変りはない。特に反対される理由はないだろう。私にとっては2年早く自由を手に入れることができる。すでに退職願を出してから10日が過ぎていた。ある晩、妻と娘に早期希望退職の件を説明した。妻の一番の関心事は経済的な不安、つまり退職金のことだと思っていた私は「割増退職金が出るので心配はない」と説明した。娘が突然「お父さんそれってリストラじゃない」と一言。まあ世の中ではそう言うのかもしれない。しかし私は会社から辞めろと言われたわけではない。あくまで希望退職なのだ。娘などにはわからない38年間の汗の結晶として手に入れようとしている退職金と自由なのだ。

意外な妻の一言

妻は浮かない顔をしてしばらく黙っていた。そして一言「その後はどうするの?」と一言。2人からは私が想像していたねぎらいの言葉はなく、私は言葉を失ってしまった。その前に言うことがあるだろう!一生懸命家族のために働いてきた。せめて「長い間お疲れさま」 「しばらくゆっくりしてください」の一言が当然あってしかるべきだろう。これに対する答えは用意していたのだが結局言わずに終わってしまった。何か不満でもあるのだろうか。妻の真意を測りかねていた。私がどんな思いで働いてきたのか妻も娘も全く分かっていない。まあ、今日のところはいい。それよりもこれから何をやろうか、何でもできる、頭の中は希望に満ちた高揚感で一杯だった。  

◇いずれ賞味期限が切れる男のロマンに気付かない自分

ねぎらいの見返りを求めている自分、苦労を認めてもらいたい自分、妻の意外な反応が意味することが解らない自分、ひたすら男のロマンを追い求めている自分がいた。   次回、第3回は「女の不満」夫が定年になって困ること バックナンバーはこちら

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